愛し愛され体を合わせることはもっと幸せでふわふわしててあったかいものだと思っていた。なあ白龍…俺たちはこのままどこへ行くんだろうな。









「ッは、ぁ…あ、やぁ…ッ!」


これで何度目になるのか。
衣服を剥ぎ取られ強い力で身体を寝台に縫い付けられる。アリババは強制的に与えられる快楽に泣きながら嬌声を発していた。


「気持ち良いですか?アリババ殿」


白龍はそんなアリババを窺いながら胸元に唇を寄せ、片手はアリババの下半身へと伸ばしている。愛おしげに慎ましやかな胸の飾りを愛撫し、下は容赦なくアリババを追い立てるかのように動きを速める。


「ゃ、やぁああ…っ!はくりゅ、やだぁッ」


暴れられないよう白龍の身体で抑え込まれているためアリババはろくに抵抗出来ずにいた。弱々しく首を左右に振り、赤くなりながらポロポロ涙を流す姿は白龍ならずとも欲を煽られ嗜虐心をくすぐられるだろう。


「…ッひ、ン!」


強めに胸元に歯を立てればアリババは軽く背を反らしながら悶える。いやいやと尚も小さく首を振るアリババに顔を寄せ、白龍は頬を流れる涙を舐め取った。そのまま潤み溶けそうな琥珀の瞳を見据えながら唇を合わせ口内を蹂躙していく。


「ん、んんー…っふ、ぁ、ん」


くちゅくちゅといやらしく響く音に耳からも犯され、アリババはより体内に宿る熱が温度を上げたのを感じた。依然として下半身もなぶられ、脚が悦楽により痙攣する。長い口付けから解放された時には飲み下しきれなかった唾液が伝い落ち、酸欠からより赤みの差した顔でアリババはぐったりとしていた。ぐちゃぐちゃに心も身体も荒らされ自分が自分で無くなるような感覚。アリババは確かにその感覚を白龍に与えられていた。


「ゃ、も…だめ、やだ、」


ヒクリと喉が震える。
言うことを聞かない身体は達することを望み、先走りを溢れさせる。白龍はそんなアリババに微笑み掛け、痛い位に性器を扱き上げた。


「あ…ッひ!?ゃ、ぁああああ」


目を見開きながら全身をガクガクと痙攣させ、アリババは白濁とした液体を自身の腹上へと散らせた。目の焦点が定まらないアリババの顔を眺めながら、白龍は近くに置いていた香油の瓶を手に取った。中身を手の上に出しゆっくりとアリババの後孔へと滑らせる。閉じた蕾に白龍の濡れた指が触れた途端、ビクンと身体を跳ねさせたアリババは整わない呼吸のままに懇願を口にした。


「ゃ、お願…ッ、も、やだ」
「駄目ですよアリババ殿。大人しくしていて下さい」


願いは聞き入れられず、そのまま白龍の指がアリババの体内へと侵入を果たした。キツい締め付けのなか確かめるように指を抜き挿しし、何度か香油を足しながら一本ずつ指を増やしていく。最初こそ侵入を拒むように頑なだが、少しずつ優しく解していくと今度は逆に奥に誘い込むかのようにほどけていく。何度も白龍に馴らされた身体は本人の意思を裏切り相手を求めてしまう。深くまで貫かれ支配される悦びを知ってしまった淫猥な内壁は、煽動を繰り返しながら熟れていくのだ。ひくつく身体にアリババは自分の浅ましさを突き付けられているようで、余計涙が溢れてくる。


「そんなに泣かないで下さい」
「ふ、ぅ…はくりゅ…ッ」


切なげにこちらを見る白龍にアリババは無意識に繋がれた両の手を差し伸ばし、首に縋りついた。その時に体内に埋められた指がより深くまで押し入って来、甘い痺れが全身に走るのを感じ吐息を漏らす。震えながらもぎゅっと抱き締めることをやめないアリババに、白龍は驚きつつもその温もりに唇を噛み締めた。


「…っ、あなたはいつもそうやって」
「ぇ、ぁ…?ッ…ひ、ぃ!」


白龍は身の内でグラグラと湧き暴れる乱暴なものを止めることなく行動に移した。勢い良く指を抜き去りそのまま加減無く自身の性器をアリババに打ち込む。突然の衝撃に対応出来なかったアリババは、はくはくと口を開閉させ呼吸すらまともに出来ずにいた。


「どうして、何故ですか、」
「ふ、ぇ、ゃッぁああ…」


ガツガツと乱暴に穿たれる剛直に身体を捩ることも出来ずにアリババは鳴き続ける。呼吸音と体内をかき回す粘着質な水音、そして甘くも苦しげな嬌声で部屋が満たされる。どうしようもなくいやらしい顔に染まるアリババを、白龍は様々な感情がない交ぜになった双眼で見下ろす。


「ハ、ッぁ…アリババ殿」
「あっ、あ、や…ぁあッ…ひッ、ぃ」

汗ばんだ額に貼り付いた金糸を払ってやると、濡れた唇を薄く開きながら熱に浮かされた瞳が白龍を見やる。白龍は金糸を払った手をそのままアリババの唇に向かわせ、隙間から熱い口腔内に差し込んだ。半分程意識が飛んでいるアリババは従順に指をくわえ込み、拙いながらに大人しく舐めていく。白龍はゾクリと背筋に走る興奮を感じながらアリババの舌を弄び、上顎をなぞっていく。敏感になった身体は小動物のように震えて、白龍の目にはその反応が堪らなく可愛く映った。散々弄った後に指を引き抜けば透明の唾液が頬を伝ってシーツを濡らし、ぼんやりとしたアリババの表情に色を添え、また劣情を煽られる。


「大丈夫ですか、アリババ殿」


我ながら白々しいと苦く笑みながらも白龍はアリババの耳元で囁く。首に回された腕の熱さにクラクラしながら白龍はアリババが落ち着くまでジッと待っていた。


「ぁ、はく、りゅ…?」
「ええ。…すみませんアリババ殿。辛いでしょうがもう少し我慢して下さい」


結ばれた焦点に一息吐いた白龍は、再び律動を始めた。アリババはもう拒絶を口にすることなく、白龍に回した腕に力を込める。そんなアリババを目の端に捉えながら、白龍は欲のままに腰を打ち付けていく。


「あっ、ひぅッ…や、ああ、あッ!」
「ッ、ぅ」


繊細な内壁を無慈悲なまでの激しさで擦られ、奥深い場所まで突き入れられる。アリババは全身を痺れさせるあまりの快楽に自身を屹立させ、もはや悲鳴に近い嬌声を上げ続けた。


「あっ、ひィッ…!いっ、…ぁ、あーッ!」


硬く熱いモノに好き勝手に体内を犯され、本来の用途では無い筈の場所が快楽ばかりを拾ってくる。アリババは途切れることのない蹂躙に五感全部が可笑しくなったように感じた。


「っ、そろそろ…」
「ぁ、も、ゆるして…だめ、も、ぁッ」


声を涸らしながら喘ぐアリババはもう限界のようで、全身を小刻みに痙攣させている。白龍も全てを呑み込み攫っていくかのような後孔のキツさと動きに歯を食いしばる。


「ふ…ッ、中に、出しますよ」
「ぁ、い、から…も、はやく、ッ」


身悶えるアリババのしなやかな肢体を寝台に叩き付けるように貫き追い立て、最奥に熱を放つ。


「あっ、…ああぁぁあッ!」


一際甘い悲鳴を上げながら背を反らし、白龍の愛液を体内で全て受け止めながらアリババも達する。そうしてそのままぐったりと寝台に崩れ落ち、意識を飛ばした。白龍はそんなアリババの頬をゆるりと撫で、赤くなってしまった泣き跡を指で辿った。






「あなたが、好きです…」


(アリババ殿)






***





アリババが目を覚ました時には既に部屋に白龍の姿は無かった。鈍痛はあるものの、清められた身体に不快感は無い。静寂に身を震わせながら上半身を起こし、小さく息を吐く。と、



「わっかんねぇーなー」


突如として静寂を切り裂いた声音。しかしアリババはまるで分かっていたかのように驚くこともなく、ただ訪問者に苦笑を浮かべた。


「また来たのかジュダル」
「俺がどこで何しようがお前には関係ないだろ。つーかひでぇ声だな」


ペタペタと素足で歩み寄ってきたジュダルは呆れたような表情そのままに寝台に腰掛けた。


「しっかしお前、輪をかけて貧弱になったな」


上から下まで眺めた後馬鹿にしたように笑うジュダルに、しかし怒るでもなくアリババは困ったように目を伏せた。そんなアリババを詰まらなそうに見下ろすジュダルは、フッと何かを思い出したように片手に下げていた袋に手を突っ込んだ。ゴソゴソと袋の中を漁るジュダルを不思議そうに見ていたアリババは、目前に差し出されたものにパチパチとまばたきを繰り返した。


「これ…」
「やるから食え」
「なん、で」


甘い香りを放つ果実を手の平に落とされ、アリババは戸惑ったように言葉を紡ぐ。しかしそんなアリババに粗雑な答えを返したジュダルはそのままもう一つ取り出した果実にかじり付いた。ただ咀嚼を続けるジュダルをしばらく見詰めていたアリババは、やがておずおずと自身に渡された果実に口を付けた。


「…美味しい、な」


ポツリと落ちた音に含まれるモノが何なのか、当人のアリババにすら分からなかった。むぐむぐと食べ進めるアリババを視界に入れながらジュダルは再び唇を開いた。


「にしてもお前ら、いつまでこんな不毛なこと続けるつもりなんだ?」


至極どうでもよさそうな態度でジュダルは問い掛ける。だからかアリババの方も重苦しく感じることなく、素直にスルリと言葉が出てきた。


「さあ…俺には白龍が何を思ってこんなことするのか全くわからねぇから」
「ふーん」


聞いておきながら適当な返事しかしないジュダルにアリババも呆れた笑みしか出ない。果物の残骸を遠くに放り、汁で濡れた手をベロリと舐めたジュダルはアリババの元まで這い寄り髪を掴み上げた。


「いだだだだだ痛い、痛いって!」
「こんなののどこが良いんだよ」
「離せよジュダル!」


グイグイと容赦なく引っ張られアリババは涙目になりながら抵抗する。本気で叫ぶとすぐに離されたが、何本か抜けてしまった金糸を見てアリババはうなだれた。


「お前…何てことするんだよ」
「あー?髪の一本や二本で一々五月蝿ぇな」
「よく見ろ一本や二本じゃないだろ明らかに!」


寝台に散った幾本かの金糸を指差し怒鳴るアリババに、ジュダルは口の端を上げた。


「何だよ、怒る気力あるじゃねーか」


にやりと笑うジュダルにポカンと間抜けな顔を晒したアリババは、一度キュッと唇を引き締めた。


「ジュダル…」
「先に言っとくけどお前みたいなショボい人間の心配なんかこの俺がする訳ねーから」


ケラケラ憎たらしく笑い声を上げる人物に、けれどアリババはゆっくりと頭を下げた。


「ありがとう」
「……」


その言葉が告げられたと同時にジュダルの笑い声はピタリと止まり、観察するような眼でアリババを見た。


「はぁ?」
「ん、いや、何か…さ。言いたくて」
「…お前って本当顔も言動もつまんねぇな」


ガシガシと後頭部を掻いたジュダルはそれからアリババの片頬をギュッと抓りながら口を開いた。


「一つだけ教えてやる。お前が此処に連れて来られたこと、あのチビは気付いてるぜ」
「ふ、ぇ?」


そんな筈はない。アラジンは今マグノシュタット学院で学んでいる身…アリババのことなど分かる訳がない。けれど何か確信があるのかジュダルは静かな瞳でアリババを見据えている。


「ま、だからってあんなチビに何が出来るかって話だけどな」


最後に思いっ切り引っ張られて離された頬はジクジクと痛みと熱を持っているが、そんなことなど気にも留まらない。


「じゃーな。白龍によろしく」


軽やかに寝台から飛び降り、そのまま開いた窓から身を投げたジュダル。その残像が目の裏に貼り付く。アリババはキツく拳を握ったまましばらく静止していたが、一気にガバッと立ち上がり手の届く範囲に置かれている既に冷え切った料理の皿を取り上げた。そうして細く息を吐き出し食べ始める。久し振りに自分の意思でするまともな食事に胃が心配だったがどうやら大丈夫そうだ。もぐもぐと口を動かしながら、大切な友達である少年の姿を思い浮かべる。


(俺がこんな風に馬鹿みたいにごちゃごちゃやってる場合じゃないよな、アラジン)


何をするにも先ずはしっかりと動けなければ駄目だ。決めたのだからもう…ずっと前に。意味の無い停滞しか生まない反抗ではなく進むために。前へ歩き出すための最善を尽くさなければならない。まだまだ分からないことだらけで足が竦むけれど、問題は山積みだけれど、一つずつでいいから解消出来るように頑張ろう。アリババの反響する光を宿した強い双眼は未来を見渡すようにただ真っ直ぐ前へと向けられた。











開かれたままの窓からはゆるやかな風が舞い込み、薄く甘い匂いを香らせた。